RNAルネッサンス 遺伝子新革命
![]() | RNAルネッサンス 遺伝子新革命 田原 総一朗 医薬経済社 2006-06-08 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
ヒトゲノム計画などがメディアにも取り上げられたり、事件のニュースなどでもなにかとお目にかかることの多いのは DNA ですが、本書で取り上げるのはどちらかというと日の目をあまり見ないともいえる影の存在 RNA 。
実際、理科の授業で覚えていることといっても mRNA だの tRNA だのという言葉くらいで、その実どういう役割であったとかはあまり覚えていない。
ところが本書を読むと DNA なんかよりも格段に興味深い秘密が隠されているようだとわかって非常に面白い。
たんぱく質を合成するさいに、DNA そのものがわざわざ出向いていってということはできないので(たとえるならばお寺などによくある絶対秘仏で、唯一無二なのでしっかりと安置されたままになっている)、その内容を伝えるために働くのが RNA (秘仏の代わりにそっくりに作られた仏像を普段は祀ったりする。ここでは伝達するので mRNA )。
ところが、 DNA の内容は必ずしも必要な部分だけが連続しているのではなく、いくつか細切れになっていたりして、間には余分な部分がはさまれており、そのまま転写しても役に立たない。そこで転写のさいに mRNA は余分な部分をカットして必要な部分だけで完全な情報を転写する。
さらには、その中のすべてを転写するのではなくて、ときによってはそのうちのいくつかを取捨選択して新しい形を作ることも行うという。
そうした様々な能動的な機能を RNA がもっているということはこれまで知らなかった。
そもそも RNA には世界の研究者はあまり目を向けてこなかったらしい。それまでは DNA が王様みたいなもので、やはりメインストリートは DNA 研究だろう、といったような認識が研究者はもちろん、世間的にもそんな意識があったのかもしれない。
ところが、ヒトゲノム計画に関して日本は立ち遅れてしまい、結果としてほとんどの権利はアメリカなど欧米が持っていってしまう形になり、なにかしようとすれば必ずロイヤリティーを払わなくてはならないようになってしまったという。
その同じ轍を踏んではいけないと、やっきになっていまこそ RNA に関して国としても企業としても予算をつぎ込んで研究していく時期だと、手をつくしてはいるらしいのだが、どうにも日本は腰が重いらしい。
今、RNA を利用して新薬開発に大きな期待がもたれているらしい。RNA には非常に能動的な能力があるということとも関係しているようで、たとえばウィルスなどに対して増殖を止めるためにたんぱく質をつくれなくするということなどが考えられているらしい。ウィルスのたんぱく質合成にあたって作られる RNA にたいして転写の向きを逆にした遺伝子を写し取った RNA (アンチセンス RNA )を作り出し、この二者が結合して二本鎖の RNA となるともはやたんぱく質が合成されなくなる。それによって無害化してしまうのだそうだ。
これが特定のがん細胞であったり、ウィルスなどに対して作ることができ、他の健康な細胞などには影響をあたえずに送り込むことが確実にできるようになれば、飛躍的な医療の進歩になりそうだ。
抗体を使った薬が効くかどうかは受容体があるかないかで決まるという。これは人によってさまざまなために、同じ薬を使っても全然効かない人と、劇的に効く人とがでてくるという。その意味では、数多くの抗体で薬が作られることが、多くの人を救うことにつながるのでしょう。
わけてもアプタマー RNA によるものは、モノクローナル抗体に比べて、より有効でより安全・安価で供給できると期待されているということで、難病治療に対して大きな期待が持てる。
期せずして「万物を駆動する四つの法則」と重なったのが、アデノシン三リン酸( ATP )の話。アミノ酸からたんぱく質を合成するときにはエネルギーが必要なのだが、そのエネルギーの直接の供給源となるのが ATP 。ATP が切り離されてアデノシン二リン酸( ADP )になるときにエネルギーを出す。このエネルギーについて熱力学の法則できちんと説明される。まさに万物を駆動しているということを実感する。
余談としては、学術誌の話がでてくる。どうしても「サイエンス」や「ネイチャー」といったところに英語での論文を出さなくては、どうにもならない現状というのがあり、それが日本人の活躍にひとつの障壁になっている部分は少なからずあるだろうというもの。
もともとは日本にも世界に認められた学術誌があったそうなのだが、次第にみな「サイエンス」などに発表することを重視していってしまい、ついには消えてしまったという。
もちろんそんなことにばかり責任をおしつけてはいけないのだろうが、欧米以外の人々にとっては、いろいろ簡単にいかない事情というのも避けられないのは確かなのだろうなと。
12 ポイントの活字が行間を十分にとって印刷されているので、本としてのボリュームにしてはあっという間に読むことができます。インタビュー形式ということもあります。とはいえ興味深いエッセンスの部分を存分に味わえ、さらなる興味をかきたててくれる内容にしあがっていると思います。
できればもう少し小さ目の活字でもよかったのではと思わないではないですが。ページ数はグッと減ったでしょう。とはいえ、読みやすさも考慮すればこれで正解だったのかもしれません。
極端に難しすぎないので、多くの人におすすめできる一冊でしょう。
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![]() | 万物を駆動する四つの法則―科学の基本、熱力学を究める Peter Atkins 斉藤 隆央 早川書房 2009-02 by G-Tools |
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
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