死者に祈りを
死者に祈りを上 (創元推理文庫) 高橋 恭美子 東京創元社 2009-04-20 by G-Tools |
死者に祈りを下 (創元推理文庫) 高橋 恭美子 東京創元社 2009-04-20 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
時間があったこともあるのだろうけれど、意外なくらいに早いペースで読み終えた。上下巻それぞれ 340 ページほどずつあったのだけれど、正味三日ほどだった。原文のためなのか、訳文がすぐれているのかはわからないけれど、こなれた訳文だったのは確か。
著名な心臓外科医が惨殺されたことから始まる。
遺族へ知らせるために訪れるとそこに待っていたのは複雑な関係が伺える大家族。
一方で勤務していた病院関係。ヒーロー的な証言も多い中、不可思議な行動が見えてくる。
仕事のかたわら研究開発していた新薬についても、契約を交わした製薬会社にはなにかがありそうな気配。
正直下巻の終わり近くまで、物語はなかなかまとまりを見せない。テレビドラマを見ているかのようなイメージで突き進む終局。
はじめてのケラーマンだったが、まずまず楽しめた。まずまずといったのは結末がやや唐突であったこと。直前まであらゆる可能性ばかりが浮上する事件であったのに、結末直前になったらすべてを知っていたかのような刑事たちの動き。そこまでが異様なくらいに長いだけにあまりの早さに違和感は否めない。
それはともかくとして、物語の展開は十分に楽しめる。どんどん読めるというその理由はほとんどが会話でなりたっているから。正確に調べたわけではないが9割以上が会話だといっていい。そのくせ登場人物が異様なくらいに多いので、時に誰の言葉なのかわからなくなるくらいだ。
その意味でいって、正直なところ小説というにはお粗末といわれても仕方ないと思う。シナリオといってもいい。それだけにテレビドラマをそのまま読んでいるようなイメージで読めるので進み方が早いのかもしれない。娯楽小説としてはひとつの成功した形かもしれない。これでト書き部分まで一人称であったらそれこそ新井素子だが、新井素子は一人称であるだけに会話そのものはもう少し控えめだ。
あとがきにもあるように、ミステリーとしての謎解きよりは、この複雑な家族関係と宗教こそがテーマなのかもしれない。父母と6人の子供、そしてその子供たちの家族。みながみなそれぞれに一癖ふたくせ持ち合わせ、社会的には高潔でまじめな父の存在、けなげに家庭を守る母。父親が殺害された直後の混乱があるとはいえ、険悪な雰囲気すら感じてしまう兄弟関係。
傍目に幸せそうに見えるからといって、なにも揉め事がない家庭などおそらくない。多かれ少なかれなんらかの問題をどんな家族でも抱えているのが現実かもしれない。その中でなんとか折り合いをつけて家族然としようとしているのか。
「家族はもっとも身近な他人のはじまり」
とはいえ、どんな時にも愛情をもって接してくれるのもまた家族なのかもしれない。もしもそれがなくなっていたら、もはや家族ではないものになってしまっているということなのか。
悲惨な事件に巻き込まれてしまったこの家族を見ていると、そんなことまでふと考えてしまいそうだ。そんな意味では、異色のミステリーなのかもしれない。
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
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