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楽園への疾走


448862913X楽園への疾走 (創元SF文庫)
J.G. Ballard 増田 まもる
東京創元社 2009-03-31

by G-Tools

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 核実験の阻止とアホウドリを絶滅から救えと訴えて、サン・エスプリ島にやってくるドクター・バーバラとその一行。ふとしたことから活動に参加せざるを得なくなり、活動中に足を銃で打たれ、いちやく時の人としても話題になり、いつしかドクター・バーバラに惹かれていく少年ニールとを主軸に展開する「楽園」物語。

 世界から注目され、あらゆる支援物資が届けられ、なんだかよくわからないヒッピーや環境活動家を自認する幾多の人々がやってくる。

 いつのまにか小さな社会となってしまった島ではあるが、次第に様子は変わっていく。ユートピアがやがてディストピアへと変貌していく過程は、背筋に冷たいものが走るうそ寒い感じ。

 いつの世でも、集団は形成されたとたんにある種の強い力にひかれてどこかへ突き進む。その疾走の行き着く先は楽園なのか、それとも。

 連合赤軍しかり、オウム真理教しかり、ヒトラーしかり。社会にしろ宗教にしろ集団がいつも正しい方向に進むだけとは限らない。ひとたび狂気の先に突き進んでしまった場合、なにが待ち受けているのか、そんなひとつの姿がサン・エスプリ島にあるのかもしれない。

 現代にかえって思えば、果たして盛んに喧伝されている「エコ」ブームはどうなのか。グリーン革命はどうなのか。その先に待っているのは本当に楽園だと信じるに足るものなのだろうか。否、本当に考えるべきは「楽園と信じるに足るかどうか」ではなく、「楽園へと導き続けるものなのかどうか」、なのかもしれない。

 バラードが見せてくれる歪んだ社会が、ただの物語にすぎないと言い切ることが、はたして出来るものだろうか。

 誰の中にもあるであろう邪なものをしっかりと見つめさせてくれる意味でも、避けて通ってはいけない稀有な作品なのではないかな、と。

 あわせて読みたい。

4532314410グリーン革命(上)
伏見 威蕃
日本経済新聞出版社 2009-03-20

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追記:(4/22)
 4/19、78 歳でバラード逝去。こんなタイミングで読むことになろうとは。



#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)

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