針の眼
針の眼 (創元推理文庫) Ken Follett 戸田 裕之 東京創元社 2009-02 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
日本においては架空戦記といわれる「もしもあの時こうであったなら」というところからイメージを膨らませた物語がたくさんある。多くを読んだわけではないけれど、そのいずれもなんだか作り物くささをぬぐいきれず単なるSFとしてしか読めない印象が強かった。
それに比べてこちらの「もしも」はまったくそれを感じさせない。詳細をよく知らない異国の物語であるからということを割り引いても、手に汗握る展開と、詳細に描きながらも読み手のリズムを損ねずグイグイと引っ張っていくその文章によって一気に大団円へと突き進む。
<針>と呼ばれるドイツの有能なスパイ。イギリスで諜報活動を行うほとんどのドイツスパイが秘密裏に捕獲され、一部が二重スパイとして偽の情報をドイツに送らされるなか、唯一その存在を隠して行動する彼がつかんだのは戦況を左右するほどの重要な偽装作戦の有無。しかしすでにその段階で MI5 による<針>捜索のための罠や作戦が展開されており、逃げるものと追うものとの手に汗握る攻防戦へと事態は転換する。
一方で物語の冒頭では結婚式の直後に自動車事故で両足を失うことになり、パイロットとして戦闘に参加することがかなわなくなった夫と若きその妻が傷心をいやすためにとある島に移り住む物語が語られる。
中盤までははたしてその両者がどう関わっていくのかとわからないまま物語は進むのだが、意外なくらいの展開を見せるあたりから俄然緊張感が増していく。
最後のさいごまで伏線の張られ方が効いていて、読後ニヤリとさせられること必至。
早川文庫時代から作品のよさは聞き及んでいたので、読みたいと思いつつもそのままに終わっていたが、ここへきてようやく読むことができた。これほどのめりこませる作品をもっと早くに読まなかったことが悔やまれるくらい。もちろん、当初の翻訳とは訳者が異なることを思うと、あるいは今回のこの訳が非常にすぐれているという面もあるのかもしれない(比較できないので、過去のものが悪いというわけではない)が、よどみない実にいい訳なのは間違いないと思う。
面白い冒険小説が読みたい、と思う人には文句なくお薦めできる一冊。
追記:
間違い部分を記載しわすれたので。(2009/2/27 初版)
P.129:「義父も同じことをいってますけどね。彼はわたしほどニシカルじゃないから。」
ニシカル → シニカルシニカル(Cynical)
冷笑する様子。皮肉。「--な笑い」(新明解国語辞典第4版)
P.154:「だがそれらはみな古く、鯖が浮き、エンジンも内部の部品も抜き取られて、車体だけになっていた。」
鯖 → 錆
毒でもまかれたのか、とかね。
P.205:「フェイバーは聞こえない振りをした。ドアの閉まる音がいた。」
音がいた → 音がした
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
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