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十の罪業 BLACK


4488169066十の罪業 BLACK
エド マクベイン Ed McBain 白石 朗
東京創元社 2009-01-28

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 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 広義のミステリーであればなんでもよしとする中編小説のアンソロジーを、ということでエド・マクベインが編集した10作からなる2分冊、「RED」と「BLACK」の後者「BLACK」を読んだ。ジェフリー・ディーバーがとスティーブン・キングが含まれているというのが選択した理由。

 とはいえ恥ずかしながらディーバーは映画は見たことがあるが、小説としては読んだことがない。けれどもその噂はよく目にしているし読む機会を待っていたというところではある。

 一方キングはいくつか読んだことがある。さほど多いわけではないが、梗概によればかの 9.11 を題材にしているということで、キングはどんな切り口で捉えるのかというところに興味があった。

 収録されているのは次の5作。

  • 「永遠」ジェフリー・ディーバー
  • 「彼らが残したもの」スティーブン・キング
  • 「玉蜀黍の乙女(コーンメイデン) ある愛の物語」ジョイス・キャロル・オーツ
  • 「アーチボルド 線上を歩く者」ウォルター・モズリイ
  • 「人質」アン・ペリー

 なんといってもディーバーの「永遠」につきるといってもいいくらい、「永遠」は出色の出来。ぐいぐいと読ませるその文章のうまさと展開のリズムのよさ。最後の最後まで油断のならない伏線が張り巡らされている心憎さ。そして、必ずしも小説の世界だけにとどまらないのではという思いを起こさせる背筋の少し寒くなるような現実との符合。

 好みの問題でもあろうけれど、キングはなんとも肩透かしの印象が残った。確かになるほどとわからないではないが、もうひとつ物足りなさが残ってしまう。

 「コーンメイデン」はホラーといっていいのでは。終始、背筋の冷たくなる感触を味わってしまいちょっと切ない。

 「アーチボルド」は好みとしてはもっとも外している作品。で、なに? というところで終わってしまった。決して短すぎるという長さではないのだが、もうひとつ踏み込めないままに終わってしまった印象が強い。

 「永遠」についでよかったのは「人質」。アイルランド問題を踏まえた小品だが、ブリジットの心の動きがていねいに描かれている。結末はやや安易なものも感じないではないが、キャラクター造形がきちんとしているだけに安定した作品に仕上がっているような。

 分量は700ページあまりあるというのに、珍しく短期間で読み終えることができたというのも、全体として質の高い作品が揃ったということの証左かもしれない。アンソロジーのよさは好みの特定の作家ばかりにとらわれずに、あたらしい作家との出会いをもたらしてくれる可能性を秘めているというところかもしれない。ここは一番「RED」のほうも読んでみるというべきかもしれないと思っている。

4488169058十の罪業 RED
エド マクベイン Ed McBain 木村 二郎
東京創元社 2009-01-28

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