おかけになった犯行は
![]() | おかけになった犯行は (創元推理文庫) Elaine Viets 中村 有希 東京創元社 2008-12 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
面白い。事情を抱えて一種隠遁生活めいた生活をしている主人公ヘレン。電話セールスの仕事をしているが、ある日ご褒美としての電話リサーチをこなしている時に殺人らしき様子を聴いてしまう。警察に連絡したものの殺人はおろか事件性は見つからないということで終わってしまう。女性の絶命と思われる悲鳴を聴いたヘレンとしてはとうてい納得のできるものではなく、いろいろと調べていくうちにどうやら殺害されたかもしれない女性の姉と接触。一緒に調べれば調べるほど事件性が疑われていく。
その過程で電話セールスの実態などが克明に描かれて、おそらく多くの読者が今後は少し態度を和らげようかなどと思ってしまうのではないか。事実、著者のあとがきにもそれに類する記述があるくらいだ。
物語の主軸は、あったかもしれない殺人を探るところだが、その枝に近隣の住人の謎やらがうまく織り込まれ、主軸の物語の緊張感をうまく盛り立てている。殺伐とした事件を描いているにもかかわらず、全体に明るさと柔らかさと暖かさといった人情的なものを感じるのは、主人公ヘレンの設定に負うところも大きいのかもしれない。
シリーズではすべてヘレンの職業が異なるのだが、彼女が身を潜めなくてはならないという理由によっているのだが、それによって異なる職業の内情を垣間見られるという面白さと、物語として事件を発生させるきっかけをつくりやすいということの両方をうまく生かしているようだ。
謎解きを楽しむとかいうのではなく、純粋に物語りの展開を楽しむ、そして楽しめる作品。細かな枝葉の物語がうまく主流の物語と交錯しながら展開していくその手腕はなかなかのものだと思う。邦題のつけ方も秀逸。
なにやら経済がおかしくなって景気が悪いだの不況だのというなんだかわけのわからない風潮に動かされて雇用が怪しくなっている今、ちょっと身につまされそうな設定でもあるけれど、笑いとともに元気になれそうなそんな物語でもあるか。
ちなみに個人的には電話セールスに対しては反対の経験のほうが多い。電話を取ると切られたり、必要ないといっている途中でブチッと切られたり。なので最近はその手の電話はもはや受け取る気にもなれない。なかにはきちんとしているものもあるのだが、そうでないもの(マニュアルでしかやっていないところとか)が多すぎるというのが実情では。お互い様というところもあるだろうけれど、社会悪のようなものになりさがっている主因はセールス側にあるようにも思う。(だからオレオレ詐欺が横行するのか?)(といって受けるこちらが横柄であっていいというわけでもないけれど。つまりは相手の対応しだいということか)
さて。本書はシリーズ3作目。この面白さは未読の作品にも十分期待できること間違いなし。ワクワク、ドキドキ、スカッとしたい向きには是非ともお薦め。
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
| 固定リンク
コメント