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プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?


4772695133プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
小松 淳子
インターシフト 2008-10-02

by G-Tools

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 先日の NHK 「病の起源 第4集 読字障害」を見ていたこともあり、梗概にそれを意味するディスレクシアについても触れているようであったので興味をもって読み始めた。字を読むということがうまくできないという人がいるということを知らずにいたのだが、意外と歴史のなかの著名人の中にもそうした障害を持っていた人がいるという。特に空間認知や芸術・科学など特異な分野において才能を発揮することが多い。

 本来脳というのは字を読むという専門の機能をもっていないという。それが次第に文字を認識して読み、理解するという経験を経ることによって脳内にあらたなネットワークが構築されていって自在に読むことができるようになるという。

 このときに活発に活動する脳の部分は使用している言語によって異なることがわかっていて、英語のそれと日本語のそれとは異なるという。基本的なところは同じ部分を経由するのだが、理解するあたりが異なるようだ。それは文字の成り立ち・特徴の違いということが影響しているようだ。

 基本的に備わっていない文字を読むという機能を、脳はどのように確立していくのかを解き明かすのが大半を占める。そのほとんどが乳幼児期に形成され、ヒトは誰もがその作業を経なくてはならないというある主の宿命を負っているわけだ。見るとか声を発するとかといった機能に関しては脳が生まれながらにして持っていながら、読むということのための専門の機能を司る部分は存在しないために、必ずそのための訓練をつみながら新たなネットワークを作らなくてはならない。

 その乳幼児期にどのような読書体験が望ましいのかということについても多くの紙数をさいている。まずは数多く読み聞かせてあげる体験が必要だと説く。その後自発的に読み書きに進むので無理にさせる必要はないとも。せかしてみてもうまくいかないし、概して男児のほうが字を読むという段階は遅いという。また、多言語に触れさせるというのは早い時期がよい。これはすなわち脳内の言語処理のネットワークを構築させるという意味で幼少期のほうが適しているからということにもよる。

 などなど。

 なのだが、正直なところこの本は成功しているといえない。その理由のほとんどは著者の文章の下手さによる。はっきりいってなにをいいたいのかわからない文章があまりに多すぎる。翻訳を担当された小松さんは相当に苦心されたに違いないと想像する。もちろんそれはあまり耳慣れない専門的な言葉などがでてくることにもよるのだろうが、それを踏まえてもなにをいいたいのか意味不明な文章が多すぎるのだ。あるいはそれはわたしの無能に由来するだけかもしれないが、それだけではないだろう。

 関連として学者バカとでもいうような文章もある。本来であれば A → B → C と展開すべき文章が、A → B で終わっていて C がなかったり、A → C と B を飛ばしていたりといった感じ。自分の頭の中ではわかりきっているので説明したような気になっているといったところか。学術論文ではなく一般向けの本であると思うので、もっと噛み砕いた表現を心がけるのは当然のことだと思うのだが、どうもそういう配慮が中途半端になっている感じがする。

この半流暢な段階では、読み手は解読できる単語を最低3000語は増やさなければならない。それまでに習得した37の一般的な文字パターンでは、もう間に合わないからだ。(P.194)

 ここよりも前に「37の一般的な文字パターン」について触れられている個所はまったくなくいきなりでてくる。あるいは脳の37野が読字に深く関係しているのでそのあたりの誤訳?

There once was a beautiful bear who sat on a seat near to breaking and read by the hearth about how the earth was created. She smiled beatifically, full of ideas for the realm of her winter dreams. "ea"の可能な発音をこれだけ並べてみれば、英語の正書法にはお手上げだ、子どもたちには無駄でも、文脈のなかで何もかも学ばせればいいと思う教育者がいるのも無理からぬこととわかろう。(P.195)

 例示されているのが英文であるということを抜きにしても、この文意が理解できる人を尊敬してしまう。

 もちろんそれは著者だけに責任があるのではなく、むしろ編集者の責任が大きいはず。内容を損ねないように一般向けに書き直すべきは指摘して修正するという作業が必要だったのではないかと。

 加えていうと(自分のことを棚に上げてということだが)、訳文についてもちょっと気になるところはある。おそらく原文の不備なところを補おうと苦労された結果でもあるのだろうと思うのだが、異様に読点が多い文が頻繁にでてくるところ。意味をきちんと読み取れるように気を配られたのだろうかと想像するのだが、かえって文意をつかみにくくなってしまう上に読みにくい(まさか読字に関する本だから、あえてということでもあるまい)。

ここで言う、視覚と概念形成機能や言語機能との接続は、たとえば、地面に残された足跡の形状を素早く認識して、これは危険を知らせるものだと即座に推論したり、認識した道具や捕食動物、敵を、それを表す単語の検索と結びつけたりすることである。(p.29)
子どもが初めて、たどたどしくも文字を理解しようとし始めた時から、読字は、体験すること自体が目的なのではなく、むしろ、ものの考え方を変え、文字通りにも比喩的にも脳を変化させる最良の媒体なのである。(P.36)
もちろん、たいていは、文字と言うより、落書きの”アート”だ。次いで、子どもが書く文字、それも特に、自分の名前に含まれている文字に、子どもたちが活字という概念を持ち始めた様子がはっきりと見て取れるようになる。(P.147)

 などなど。強調しているのだろうなということや、つながりをはっきりさせようとされているのであろうことは理解できるのだが、あまりに多すぎると却って読みのリズムを崩してしまう。

 こうしたことから考えると、一番読んで欲しいであろう小さな子どもを持つ親の大半にとっては、読み通すのが苦痛になりはしないかとも思う。もしもその場合は、最後のまとめの章(ここも他と違いはないものの)だけを読むか、はたまた解説だけを読むほうがはるかに内容を捉えやすいかもしれない。

 非常に興味ある内容であるだけにもったいない。(と、わたしとしては思う)

 最初に書いたように、ちょうど NHK の番組でも読字障害を取り上げていたり、さらにはおしまいのほうでは先日放送のあった「デジタル・ネイティブ」などについても簡単に触れている。まさに時代を得た内容であるだけに、もう少ししっかりとした書物として出されていたらと思わざるを得ない。もちろん、それはわたしの読解力の不足に起因するのかもしれないけれど。それこそ本書で語られている、脳が文字を読むという機能を発達させていく過程の解明とリンクするわけだが。



#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)

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