タナーと謎のナチ老人
![]() | タナーと謎のナチ老人 (創元推理文庫 M フ 11-3) 阿部 里美 東京創元社 2008-09 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
感想をひとことでいえば、「娯楽小説はこうでなくっちゃ」。
久々に一日で読み終えた。さほど長くないとはいえ読み始めたらテンポの良い展開と読みやすい文章でついついページが進んだ。翻訳なので原文がそもそもよい感じの文体なのか、それとも翻訳が実に絶妙なのか、そのあたりはよくわからないけれど、少なくとも翻訳の文章がこなれていて読みやすいのは事実。
眠らない男という触れ込みの主人公タナー。さながらドラマ「24」ばりに忙しくて寝ているひまもないというようなことかと思ったらまったく違っていた。過去に脳の睡眠を司るあたりを損傷したことをきっかけに、真に眠らない男になってしまったのだという設定。そういえば以前にテレビでそんな男性のことを見たことがある。とはいえ眠っている時間に幸せを感じる人にはとてもたえられないことだろうなあ。新井素子だったらぜったいに発狂しているのでは。いやわたしもそうだ。寝るのが好き。
そのタナーに今回やってきた依頼は、囚われた元ナチの老人。悪事も多くしてきたらしく処刑もやむなしかというその老人のにぎっている情報を手に入れたいということから、生きて助け出してその情報を手に入れろというもの。当然、まんいち発覚した場合にアメリカ国家に影響がないように、一切手を貸さないし、たとえ捕らえられても知らぬ存ぜぬを通すという条件で。そもそもそんな部の悪い条件など飲まなければいいものをといってしまうと話が始まらない。
冒頭からすでにしてスパイがいると見つかりかけ、なんとか逃げ延びて協力者を見つけると現れるのは美しくて魅力的な若い女性というあたり、スパイ小説の王道もしっかり抑えられている。
いかにして老人の捕らえられている地までたどりつくのか、救出はどうするのか、その後逃げおおせるまでの二転三転する展開は、書かれた時代が 40 年あまり前で国際情勢も今とは違うとはいえわくわくさせてくれてページが進む。
もちろん、ご都合主義もそこここにあるが、それは物語上のちょっとした味付けでしかない。それを含めて全体を楽しむ、それが娯楽小説ってもの。まさに、読後「あー、面白かった」で終われる物語。唯一の不満は、あれほど魅力的なキャラクターのグレタが置き去りにされたまま最後はでてこないというあたり。最後のさいごまでからめて欲しかったような気持ちも。
実のところローレンス・ブロックの評判は知っていたものの読むのはこれが始めてだったのだが、これなら他の作品にも期待できそうだ。もちろん、タナーの1作目も読んでみたいところ。
ところで本が好き!という献本サービスを知ったのはしばらく前で、arton さん経由で poppen さんのところを読んだときだった。そのときには在庫されていた本がさほど興味をひかなかったこともあってそのままにしていたのだったが、この夏になって久々にみると「フロスト気質」が出ていた。「フロスト」はずっと読んでいたし、ようやくの新作も読みたいと思っていたのだが、なんせ上下二分冊でそれぞれ 1100 円あまりする。どうしたものかなどと思っていたところだったので、これは参加するか、と思ったのだった。
が、直後に体調を崩したのでとてもそんな状況ではなくなり、気が付いたらすべて配本が完了してしまったのだった。残念。
それでもそこそこ良さそうな本もあるようであるし、次のチャンスを逃さないためには参加してみようかということで今回登録することにした。その第一回目がこの「タナーと謎のナチ老人」。幸いにしてよいスタートを切れたので、今後もよいお付き合いができればと思うばかり。
さて、次は何を読もうか。
追記:10/2
忘れていたが、本文で気になった点。120 ページで映画「カサブランカ」がひきあいに登場するのだが、なぜか「カサンブランカ」と書かれている。念のために調べてみたが Casablanca であって、どうにも「カサンブランカ」と間違うような気配が見えない。原文が違うのか、はたまた翻訳の過程、校正の過程で間違ったのか?
カサブランカ 特別版
ハンフリー・ボガート, イングリッド・バーグマン, ポール・ヘンリード, クロード・レインズ, マイケル・カーティス
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
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