ひとめあなたに・・・
![]() | ひとめあなたに・・・ 新井 素子 東京創元社 2008-05-29 by G-Tools |
「私にとってはあらゆる小説の中でのベスト、です。」ということなので、もはやおぼろげに、あと一週間で地球がなくなってしまう状況で、恋人にどうしても会うためにひたすら歩いていく(途中バイクにも乗るが)。その途中で、異常下においてさまざまに狂ったというような女性たちに出会っていく様を描いていた、ということくらいしか覚えていないので、それではということで、実に 27 年ぶりに再読した。勢いもあって双葉ノベルスで。活字が小さい!
読後感は素直にスゴイ。SF としてどうかといったら、地球が一週間でなくなることになったという設定だけ。あとは SF 的な要素というものは皆無といっていい。もちろん、それは新井素子の作品の多くにいえる共通点なのだけれど、描かれる人物や展開される会話のひとつひとつにずしりとくるものがある。これが 20 歳の頃の女性が書いたとはとても思えないようなものを含んでいる。
ひとつひとつのエピソードは独立しているので、全体として関連するものではないものの、そのそれぞれのインパクトが基本設定の異常さを十分に補完していて、それでいて最終的なところでその狂気を包み込む大きさまで描いているって感じだろうか。設定と物語の途中の重さに比べて、読後感はなぜか重くないと思うのだが。
ただ、近年あまり読まなくなってしまった原因もそこにあって、すべての作品が大別すれば金太郎飴になってしまっているという特徴はどうしようもないのだとも思う。
それでもあえて言えば、物語の展開の面白さは抜群なのだ。テンポのよさは、今となっては独特ともいえないかもしれないその語り口にあるし、まとめあげる力量というのも抜群なセンスを持っているのは間違いないとも思う。だからこそ、デビュー以来ずっと読んできたわけでもある。異なるあとがきを読むためだけに、新書、文庫と買い集めたわけでもある。
これがベストかどうかは、もはや記憶を呼び起こすことも難しいのでおくとして、せっかくの機会なので少し再読を続けてみようか、などとも思っている次第。
赤川次郎の解説が載ったのはこれ。確かに「天才」の話がでているなあ。(双葉ノベルスでの誤植も訂正されている)
![]() | ひとめあなたに… (角川文庫) 新井 素子 角川書店 1985-01 by G-Tools |
それにつけても「頭をなぜる」という表現が多用されるのだけれど、それって東京方言だろうか? 「なでる」というのが国語的かなと改めて思ったのだが、当時どう感じていたかはもはや覚えてもいない。
チャイニーズスープの猟奇的な場面も、今のほうがそうした事件も多く、余計に生々しく感じられて気持ち悪かった。それをさらりと書いてしまうというのも、いやはやすごいわ。
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