つき物こぞりて
![]() | 憑神 浅田 次郎 新潮社 2007-04 by G-Tools |
映画が面白そうだというので、読んでみた。確かに面白い展開。うっかり拝んでしまったやっかいな神様たちによって引き起こされる悲劇やら、そんな神様たちとのやりとりは笑える。
とはいえ、帯の惹句「抱腹絶倒にして感涙必至」というのはちょっと難しかった。確かにおかしいのだけれど、あまりに時代物に固執しすぎたのかト書きが妙に固っくるしい武士言葉でがちがちなために、その面白さのリズムにいまひとつ乗り切れない。それが一人称で語られているならそれでも仕方ないかなと思うのだけれど、そうではないのでもう少し軽い文章でリズムをとってくれていたらなあ、という印象は拭えない。
仮に、きちんとした武士の姿を描きたいということであったなら、コメディー調の部分をのぞけば本格的な時代物として評価もできるのだろうけれど、その点でもどっちつかずになってしまったきらいはあるのでは。
感涙必至という落ちも、浅田小説としては王道なのかもしれないのだけれど(ほかは読んでいないのでなんともいえないけれど)、いまひとつ素直に涙を誘うという展開に感じられない。いやまあ確かになんと実直な武士なんだろうと涙しないわけではない(いや本当に泣くわけではないけど)。ただ、どちらかというとこれはコメディーなので、それなりの落とし方の伏線が張ってあるのに、それを活かしていないのはもったいないなあというのが正直なところ。
面白いだけに惜しい、とまあこれは勝手な感想でしかないけれど、そんな読後だったなあ、と。それだけに「幕末時代小説の最高傑作」っていうのはちょっと恥ずかしい感じがしてしまうような。
もっとも、それだけに映画はどうするのだろう、という期待はあったりするわけで、面白さを裏切るわけではない。短時間で一気に読んだという点でもそれは確かだ。
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