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乳ガンなんかに敗けられない


4-16-336701-2乳ガンなんかに敗けられない
千葉 敦子(ちば あつこ)
文芸春秋社
1981年6月発行 絶版
本体1200円

 1980年に乳がんを発見し切除手術をするまでの記録だが、恐らくそれは多くのこうした体験記録・手記といったものとは違っているだろうと思う。恥ずかしながら他のものを読んでいないのであくまでも「思う」でしかないのだが。けれどもその行動の経過はわたしたちにとっても多くの示唆に富んでいるし、もしもこのような事態に遭遇した時には非常に参考にすべき内容であるのは間違いない。

 彼女は自らしこりを発見し、それまでに様々な予備知識を得ていたので迷うことなく診察を受けることにするが、信頼のおける第三者にアドバイスも受けた上でどこの医師に診察を受けるかを決める。とかく彼女ほどの知識と探究心を持ち合わせていると誰かのアドバイスなど受けるものか、自分のことは自分で決めるといった風になりがちだが、「必要なときに必要なアドバイスを求めることができるというのは大切なことだ」と、別の本で書いている。

 最近でこそ患者がもっと病気のことや病院・医師のことを勉強し、自分で充分に納得して医療を受けることが求められ、また認められるようになったけれども、当時の日本においては嫌な患者という受け止め方をされたかもしれない。

 そんな積極的にみずからの病と闘うという部分とは別に、乳房を失うということに対する不安といったものも素直に書いていたり。けれどもそこにこだわって留まらないという姿勢は学ぶべきものが多い。同時にジャーナリストとして、入院や病院というものをみつめ、よりよい関係や環境とはどうあるべきかも考えさせる。

 千葉敦子の本を読むようになって実行したことがある。それは赤鉛筆を用意して本を読むこと。気になったり、気に入った部分にはどんどん線を引く。サインペンなどでは裏映りしたりするし線が主張しすぎる。赤鉛筆は優しく、けれどもきちんと主張する。過去になって読み返したりぱらぱらとめくると、かつて自分が何に感じたのかなどが分かるのもまた楽しい。本書では次のようなところに線が引かれている。

あるていどの期間服用する薬について、患者に何であるかの説明をしないのは医学的にみても問題である。

砂田にしても、ほかの友人にしても、立派なのは、いったん私が断ったら、もう一切私のすることに口出しをしないという態度である。

何もガンに限らず、医学的処置について患者は知る必要がないと考えている医師、看護婦が、日本では圧倒的に多い。

 本書の結びの一文などはいつまでも印象に残るが、あまり引用するわけにもいかないのでぜひ古書店などで入手してください。

 なお、文庫版の表紙はあたりさわりのないイラストになっていたかと思うのですが、彼女自身が好きだった乳房を、記録のためにも、そして記憶のためにもとプロの写真家に撮影してもらった写真を表紙に使っているハードカバーが、わたしは好きです。

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