祖国なき男
![]() | 祖国なき男 (創元推理文庫) 村上 博基 東京創元社 2009-11-20 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
前作でヒトラー暗殺に失敗して祖国イギリスにからくも戻ってきた主人公が、単身ふたたびドイツに潜入し、軍とは関係なく暗殺をもくろむという話。前作は読んでいないけれど、冒頭に簡単に説明があるのでそのあたりの違和感は少なく読めるはず。
ただ、どうにも読みにくい感じがして難儀した。文章が難しいとか文体が古式ばっていてというわけでもない。あえて言えば文章に説明が足りないというところか。解説によれば、前作もそういう嫌いはあるようで、ただそれは主人公による手記という手法で書かれているためで、そこがいい味になっているといった感じの内容であったのだけれど、果たしてそれだけなのか? という感じも。
前半でドイツ将校の振りをして列車に乗り込む件がある。四人のポーランド人をアウシュビッツに連行するということで乗せている列車。主人公にしてもドイツ軍に追われている状況なので、できるだけ早く逃げる算段をしたいと思っている。そこで捕虜を見方につけて逃げようと考える。
走行中の列車から捕虜を突き落とすといって警護の兵ふたりに扉をあけさせ、ひとりを突き落とし、もうひとりをというところで捕虜が警護兵の口を両手で抑えて声を出せないようにする。四人も捕虜がいてなんの拘束もされていないというのもちょっと謎だ。警護兵を突き落とし、自分はドイツ人ではなくイギリス人だというとあっさり信じてくれるポーランド人捕虜。抱擁して涙まで流す。
逃走について相談するうちに、やはり一緒にというのは難しいということでひとりで行動することにする主人公。アウシュビッツ駅について捕虜四人は降ろされて連行用のトラックに乗せられる。突き落とした警護兵が見つかると足がつくと不安に思い、突き落とされた兵がいると連絡があったと兵に伝え、捜索に行くように命じる主人公。一緒に行けと命じたのは連行用トラックの運転手らしい。しかも運転手以外には誰もいないらしい。
時間について触れられる部分がほとんど出てこないのだが、途中いきなりアウシュビッツ到着は夜なので、といった描写がでてきたりする。乗ったのがいつだったのかもわからないし、どれほど離れているのかも他国の読者にはわからないのでそのあたりの想像もつかない。
このトラックに運転手以外に警護兵がいないとか、なぜ護送トラックの運転手を捜索に回すことに不信を覚えないのかとか(将校にばけているからとはいえ)、護送トラックを運転して逃走するのだろうと分からないでもないが、あまりそれと感じられる描写がないのであるいはまったく単独で逃げいているだけなのではと思っていると、やはり護送トラックだったとわかったり。もう少し書き込んでくれたらと思ってしまう。
翻訳については基本的にはさほど違和はなかったのだけれど、年配の翻訳者の方のためか、若干文章が独特すぎてリズムに乗り切れない部分が目立ったところも。「○○だった。とはつまり、××ということだ」という表現がなんどとなくでてくるのには正直閉口してしまった。
ということで設定そのものは非常に魅力的ではあったのだけれど、最後まで没入できないままに終わってしまった。つまり、いまひとつこの小説とは合わなかったということなのかもしれない。
- ジェフリー・ハウスホールド/翻訳:村上 博基
- 東京創元社
- 840円
書評/ミステリ・サスペンス

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